国民年金と厚生年金は原則として65歳から受給が始まりますが、66歳から75歳の間で繰り下げて増額した年金を受け取ることも可能です。厚生年金は会社員や公務員が加入する年金で、国民年金と異なります。厚生年金の受給額を増やす方法について、企業年金やiDecoに加入することが挙げられます。厚生労働省は将来の年金額を簡単に試算できる公的年金シミュレーターを開発し、具体的な年金受給額を知りたい方は利用を推奨しています。
原則として、国民年金・厚生年金の受給開始は65歳からです。しかし、66歳以降75歳までの間で繰り下げて増額した年金を受け取ることも可能です。繰り下げた期間によって年金額が増額され、この増額率は一生変わることはありません。そのため、受給開始の年齢を悩む方もいるでしょう。
そこで、日本クレアス税理士法人の中川義敬が、長年の税理士業務を通じて得た知識と経験に基づき、厚生年金の基本的な内容と年金受給額の増額について説明します。
厚生年金とは?
厚生年金と国民年金の違いは?
厚生年金の計算方法は?
厚生年金の計算シミュレーション
厚生年金の受給額を増やすには?
まとめ
厚生年金とは?
厚生年金は、会社員や公務員などが加入する年金で、国民年金の第2号被保険者に該当します。加入方法は、勤め先を通じて事業主が届出を行い、保険料の納付は勤務先を通じて行います(給与天引き)。保険料は月給に対して定率であり、実際に支払う金額は個人によって異なります。厚生年金の保険料は、事業主(雇用者)が半額を負担しており、支払われる金額は実際の保険料の2倍になります。
厚生年金と国民年金の違いは?
国民年金は、農業者、自営業者、学生、無職の人などが加入する年金で、一般的に国民年金の第1号被保険者に該当します。国民年金の加入者は自ら市区役所や町村役場に届け出をし、保険料は納付書や口座振替などを通じて自己の責任で支払います。加入者が支払わない場合は、免除や納付猶予の制度を利用することも可能です。国民年金に加入していない場合、年間16,520円(令和5年度)という基本保険料に加え、月額400円の付加保険料を支払うことで将来的に老齢基礎年金を増やすことができます。
一方、厚生年金に加入している人は国民年金の第2号被保険者です。第2号被保険者は国民年金と厚生年金の両方に加入しているため、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取ることができます。
厚生年金の計算方法は?
国民年金に加入している場合、40年間保険料を支払うと老齢基礎年金を満額受け取ることができます。一方、厚生年金では老齢基礎年金と老齢厚生年金に分かれており、老齢厚生年金部分には満額という概念が存在しません。老齢厚生年金は年収と加入期間に基づいて支給額が決定され、支払った金額が多いほど受け取れる年金額も増えます。
厚生労働省年金局の資料によると、厚生年金の老齢年金受給者の平均月額は145,665円であり、国民年金の受給者の平均月額である56,479円の約2.5倍です。このデータから、厚生年金の加入の有無が年金額に大きな影響を与えることがわかります。
厚生年金の計算シミュレーション
具体的な年収ごとの厚生年金受給額については以下を参考にしてください。
(1)年収300万円で40年間保険料を納付した場合
65歳から受給すると年間約140万円の年金が支給されますが、70歳まで繰り下げると約200万円まで増加します。
(2)年収500万円で40年間保険料を納付した場合
65歳から受給すると年間約180万円の年金が支給されますが、70歳まで繰り下げると約260万円まで増加します。
(3)年収700万円で40年間保険料を納付した場合
65歳から受給すると年間約220万円の年金が支給されますが、70歳まで繰り下げると約320万円まで増加します。
(※)上記の年収は23歳から63歳までの平均年収を想定しています。
厚生労働省のデータによると、男性の平均寿命は81.05歳、女性は87.09歳です。したがって、65歳から受給を開始した場合と70歳から受給を開始した場合で、男性では大きな差がないことがわかります。
厚生年金の受給額を増やすには?
国民年金と比較すると、厚生年金の年金額が高いことがわかります。ただし、年収500万円でも支給される年金は約180万円であり、将来的な年金額を増やしたいと思う方もいるかもしれません。
増やす方法としては、勤務している企業が確定給付企業年金または企業型確定拠出年金を導入している場合、それに加入することで年金額を増やすことができます。
逆に、企業がこれらの制度を導入していない場合、iDeCoに加入することで増やすことが可能です。2022年10月以降、国民年金被保険者であればだれでもiDeCoに加入することができるようになりました。厚生年金の加入者は国民年金の第2号被保険者に該当するため、iDeCoに加入することができます。
さらに、個人年金などを提供している民間保険会社に加入することで年金額を増やすこともできますが、リスクを伴う商品もあります。したがって、保険会社からの詳細な説明を受けた上で加入することをお勧めします。
まとめ
厚生労働省は、年金制度改正法の周知や、働き方や暮らしの変化に伴う年金額の変化を「見える化」することを目的として、公的年金シミュレーターを開発しました。このツールを使用することで、将来の年金額を簡単に試算することができます。興味がある方はぜひ試してみてください。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・